歳を重ねると筋肉がつきにくいのはなぜか。
- 髙橋 大翔
- 16 時間前
- 読了時間: 6分

札幌市豊平区中の島にあるパーソナルジムR. Physio labスタッフの髙橋です!
今回は加齢と筋成長に関しての解説をします!
「若い頃と同じようにトレーニングして、同じようにタンパク質を摂っているのに、筋肉のつき方が明らかに悪くなった」
40代、50代になってから、そう感じたことがある方は少なくないはずです。
この現象は「同化抵抗性(アナボリック・レジスタンス)」と呼ばれ、加齢に伴う筋肉量の減少(サルコペニア)の大きな原因の一つとされています。
2026年7月に発表された研究をもとにアナボリック・レジスタンスについて解説しようと思います!
同化抵抗性とは何か
私たちの筋肉は、常に「作られる」働きと「分解される」働きの両方が同時に起きており、そのバランスによって筋肉量が保たれています。
食事でタンパク質を摂ったり、筋トレをしたりすると、体は「筋肉を作ろう」というスイッチを入れ、筋肉が作られる働き(筋タンパク質合成)を活発にします。
ところが、歳を重ねると、同じようにタンパク質を摂取しても、若い頃と比べてこの「筋肉を作ろう」というスイッチの反応が鈍くなることが、これまでの研究でわかっています。
これが同化抵抗性です。せっかく食事や運動で刺激を与えても、体がその刺激にうまく反応してくれない状態、とイメージするとわかりやすいかもしれません。
なぜこの研究が必要だったのか
これまでの研究では、同化抵抗性の原因になりうる要素がいくつも見つかっていました。
例えば、腸で栄養が吸収される段階での変化、筋肉へのアミノ酸の取り込みにくさ、インスリンの効きにくさ、筋肉を作る指令を出す仕組み(mTORという分子など)の感度の低下などです。
しかし、これらの要素のうち、どれか一つだけを取り出しても、実際の高齢者で見られるほどの「筋肉の作られにくさ」を完全には説明できないことが課題でした。
つまり、単一の犯人がいるわけではなく、複数の要素が絡み合っている可能性が高いと考えられていたのです。
とはいえ、これらの要素が体の中で同時にどう影響し合っているかを、人を対象にした実験だけで確かめるのは非常に難しいという問題がありました。
そこで今回の研究チームは、筋肉の中でタンパク質が作られる仕組みを数式で再現した「モデル」を使い、コンピューター上でさまざまな条件を試すという、シミュレーションの手法を取り入れています。
同化抵抗性の原因は一つではない
研究チームは、筋肉の中でのシグナル伝達やタンパク質代謝を再現したモデルを使い、これまで提案されてきた複数の「同化抵抗性の原因候補」を、一つずつ、あるいは組み合わせてモデルに反映させ、実際の高齢者で観察されているような筋タンパク質合成の低下を再現できるかどうかを検証しました。
その結果、原因候補を一つだけモデルに反映させても、実際の高齢者で見られる筋タンパク質合成の低下を十分には再現できませんでした。
しかし、複数の原因候補を同時にモデルに組み込んだ場合には、実際の高齢者で観察されているデータに近い変化を再現することができました。
つまり、この研究結果は、「同化抵抗性は単一の原因で起きているのではなく、複数の要因が同時に、かつ互いに影響し合いながら重なり合って起きている」という考え方を、裏付けるものだったということです。
対策についても興味深い結果
研究チームは、モデルの中でさまざまな「治療的介入」を模擬的に試すシミュレーションも行っています。
その結果、原因が一つだけに限定されている状況であれば、その一つの要素だけを狙ってアプローチすることで、筋タンパク質合成をある程度回復させられる可能性が示されました。
しかし、実際の高齢者のように複数の原因が同時に存在している状況では、一つの要素だけにアプローチしても十分な回復は見込めず、複数の要素に同時にアプローチする必要があることが示唆されています。
現場の実感と一致する結果
この結果は、これまで臨床や現場で言われてきたことと、方向性としてよく一致しています。
加齢に伴う筋肉量の減少に対しては、「タンパク質を多めに摂ればいい」「筋トレさえすればいい」という単一の対策だけでなく、十分な量のタンパク質摂取、レジスタンストレーニング、活動量の確保といった複数のアプローチを組み合わせることの重要性が、これまでも指摘されてきました。
今回の研究は、その理由を裏付ける一つの説明として、「そもそも高齢期の筋肉の作られにくさ自体が、単一ではなく複数の仕組みの重なりによって起きている」という視点を提供してくれるものと言えます。
知っておきたい研究の限界
この研究は、実際の人を対象に薬や食事介入を行った実験ではなく、あくまで数式によるコンピューターシミュレーションです。モデルが再現しているのはあくまで理論上の反応であり、実際の体内でどこまで同じことが起きているかは、今後、人を対象にした実験で確認していく必要があります。研究チーム自身も、今回の結果は「今後検証すべき新たな仮説を示すもの」という位置づけで述べています。
まとめ
今回紹介した研究は、加齢に伴って筋肉がつきにくくなる「同化抵抗性」という現象が、単一の原因ではなく、複数の要因が同時に絡み合って起きている可能性を、コンピューターシミュレーションによって示したものです。
この結果は、歳を重ねてからの体づくりにおいて、「これさえやればいい」という単一の近道は存在しにくく、十分なタンパク質摂取と適切な運動刺激を組み合わせて、複数の角度から筋肉にアプローチし続けることの大切さを、あらためて裏付けるものと言えそうです。
参考文献
McColl TJ, Moore DR, Emberly E, Church DD, Clarke DC. Multifactorial nature of anabolic resistance in ageing skeletal muscle: A systems modelling study. J Physiol. 2026 Jul 17. https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/journal/14697793
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